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我流オーディオ独り言-4 <生音に迫る音> [我流オーディオ独り言]

我流オーディオ独り言 - その4 <生音に迫る音>です。

昨年末の話になります。
当ブログ「我流オーディオ....」をご覧頂き、「スピーカー再生技術研究会」副会長 M氏からご連絡を頂きました。
M氏は、オーディオ全般に明るい猛者なのは勿論ですが、とりわけスピーカー再生の可能性を研究されており、様々なアイデアを実際に試しながら、既成品には無い、ご自分が理想とする音を追求されている方です。

そんな M氏が、最近 至った結論として、
「やはり、振動板の面積が大きくなるほど、また能率が高くなるほど自然な音色になる」
と、おっしゃるのです。

世のオーディオの指向は、正確な振動(音)を実現させるためには、小さなスピーカーの方が有利である。という考え方が支配的で、また、高性能を売り物にするスピーカーほど能率が低いのが現実です。
 ※その理由を一言で言えば、大きな振動板を正確に動かすのは物理的に無理があるという考え方から。
  そして、能率を押さえることで、周波数特性をフラットに整えやすいから と言うことなのだと思います。
M氏は、オーディオの研究家でありながら、世の傾向とは逆の考えに至ってしまったようですね(^^)

そんな時に、私のブログに目が止まったとおっしゃって頂きました。
そう、私も大型スピーカーシステムである NS スピーカーと出逢ってからは、新しい理論が必ずしも絶対ではないと感じ、<NSスピーカーのお話>を書いていたのでした。まさしく M氏と同じことを考えてのことです。

M氏は、ご自分の考えに確証を得るためにも、一度、大型の NS スピーカーの音を実際に聴いてみなければならないと考えられたようです。 私とて、同じ考えの同志ともいえる、しかも耳の肥えたオーディオ研究家のご意見を伺える機会ということもあり、快諾いたしました。

ただ、当方の事情で、秋口から一時期オーディオシステムを封印していたこともあり、セッティングが整うまでに約1ヶ月余りを要し、しかも<その3>で紹介したシステムとはかなり違うスピーカーレイアウトになったということを書いておかなければなりません。以下のような感じに変わりました。(以前のものは<その3>でご覧下さい。理由は、モニタが 46inch に替わったことによります。)


YAMAHA NS-30 JA-6002
 ※特異形状のスピーカーは、YAMAHA NS-30 JA-6002ユニット 1967年製
YAMAHA NS-30 JA-6002
 ※JA-6002は、ピアノの響板をヒントに作られた YAMAHA オリジナルユニット。
  普通に見える丸いスピーカーは、スコーカーで、サイズは30cm。ウーハーではありません。
YAMAHA NS-30 JA-6002

以前のシステムに比べると、かなり普通なレイアウトになりました。(^^;)

特徴的だった、センターの JA-5101 が見当たらないでしょう? 勿論、うちのシステムのですから大型モニタを差し置いてでも、その場所に置かねばなりませんが、モニタが置ける場所もここしか無いんですよ。
というわけで、平面バッフルの JA-5101 は、なんとモニタの背面に!

YAMAHA JA-5101

しかも、斜め45度設置。
おいおい、こんなんで、まともな音になるのか? と思われても仕方ありませんが....

音の経路としては、大半は回折現象で直接耳に届くはずで、残りは天井に反射(入射角・反射角とも約45度でうまく耳に届くはず !?? シンフォニーホールなどのステージ上にある響板と同じ考え方ですな..)、、、いずれにせよ、正面にはきちんと定位するはずと踏んでいました(^^;)
経験的に、多少障害物があっても経路さえ確保しておけば、ほとんど不自然なく聴こえるはずです。減衰しやすい高域は、幸いにしてTV越しにツイーターが直視できていますし。
あと、TVの背面や バッフルの延長となるガラス面などで複雑に反射する音は、うまくすればホール的な効果を期待できるかもしれません。ちなみに TVの背面はプラスチック製のため、別途反射板を置いています。

いろいろセッティングを重ねた結果、障害物(TV)の存在をものともしないセンター定位を獲得することに成功。全く不自然さを感じさせない音が確認できたので、これで なんとか M氏にお披露目できる準備が整いました。11月に連絡をいただいておきながら、お披露目できるようになった時には、ぎりぎりの年末になっていましたけれども(^^;)


M氏は、年末の昼下がり、2時過ぎにお越しになり、終電に間に合うぎりぎりの11時過ぎまで、9時間ぶっ通しで試聴されました。
それをもって「何時間聴いても聴き疲れしない素晴らしい音」と評価頂きました。(^^)
さらには、「極めて自然で、生音に迫る音」との最高の評価も頂きました。

M氏は、学生時代 吹奏楽部だったため、特に管楽器系の生音はよく解っているとおっしゃってましたが、実は、用意していたソースの多くに、管楽器もの(アルトサックスや、トランペット)の JAZZ や吹奏楽の CD が入っていたため、いたく感激されたようでした。

「もし、カーテン越しに生楽器と聴き比べのブラインドテストをしても、判断がつかないかもしれない」とも。
これは、オーディオの評価としては最高の褒め言葉ですよね。ありがとうございます。


また、特に気に入られたのは、低音の出方です。
現代のスピーカーは、小口径で低音が出にくい分を、箱で増強しています。
多くはバスレフという共鳴管を使用する方法。これは、特定の周波数をダクト(管)でブーストする方法で、見方を変えれば、低い音を出すように設計された笛のようなものです。
箱が鳴らす笛のような音な訳ですから、バスレフの音は、耳が慣れてくると人工的に増強された低音に聴こえてしまいます。悪く言えば、低音の周波数は出ているが、低音のニュアンスまでは再現できないんです。
いわゆるこれが オーディオ的な音。M氏は、ダクト特有の音と言われてました。

ところが、NSスピーカーには、そのようなダクトがありません。それどころか、NS のスピーカーBOX は、箱というよりも「枠」というような代物です。後面開放型BOX。ふちを折り曲げた平面バッフル型と言ってもよい構造なのです。
このような箱では、箱によるブーストはありませんので、その分、スピーカーの振動板の音がそのまま再生され、低音のニュアンスもそのまま再現されます。
そのために、NSスピーカーは、大型になる必要があったわけですが、さすがにこのサイズになると、箱のブーストなど無くても必要充分な低音が出せるんですね。
M氏は、しきりに、「箱臭くない低音が素晴らしい」と感心されていました。
自分が探し求めていた音を、ここに見つけたとも...。



実際、1m級の NS スピーカーが奏でる音の生々しさは、小さなスピーカーの比ではありません。
世のオーディオの傾向が、小さなサイズの精緻なスピーカーに移ろうとも、大型スピーカー & 高能率スピーカーが奏でる音の生々しさには、捨てがたいものがあります。
広帯域のハイレゾ音質で無い代わりに、箱で低音を増強する事無く、能率を犠牲にして無理矢理フラット調整化された音でも無い、実に朗々と、のびのび鳴る自然さは、本当に躍動感に溢れる生きた音と言えるでしょう。
M氏もご自分の辿り着いた結論に確証を得て大変満足されたようでした。

M氏とは、こんな話もしました。
「世間が 40年前に見捨てた骨董スピーカーが、こんなに生々しい音を出すことは、胸を張って今の人たちに訴えていかないとダメですね。特にスピーカーで行き詰っている多くの人に聴かせてあげたい」と。 なので、このようにブログで、今までよりもちょっと強気に NSスピーカーの PRをしています。(^^)

M氏は、その後すぐに、たまたまオークションに出品されていた NSスピーカーを即決で落札されました。
NSスピーカーは、40年ほど前の ほんの数年間だけ YAMAHAから販売されていた、構造的にも現代のスピーカーとは全く違う、今となってはオークションでしか手に入れることのできない希少品です。
当方で試聴された翌日に、良いタイミングで、状態の良い NSスピーカーと出逢えたのは、運命的でもあると喜んでおられました。

オークションで、求められる人のところに辿り着く NS スピーカー。
手に入りにくい希少品だからこそ、本当に欲しい人のところにだけ辿り着くわけで、そういったフィルターを通り越すからこそ、永く愛され続けるんでしょうね。 M氏は沢山のスピーカーをお持ちですが、これは絶対に手放さないだろうとおっしゃっていました。



***

オーディオの評価で、「生音に迫る音」というような表現は、うさんくさくて、禁句と言われるものの一つかもしれませんが、あえて、今回は その表現を使ってみました。
オーディオの評価は多分に感覚的で、主観的なものですから、なにをもってそんなことが言えるのかという基準もありませんし、実際、40年前の NSスピーカーと現代の精緻なスピーカーを周波数特性や高調波歪み率などで比較した場合は、新しいもののほうが断然特性が良いであろうことは火を見るよりも明らかです。
聴感的にも、現代の精緻なスピーカーが聴かせるような、きらびやかな高音、オーディオ的な低音を期待すると拍子抜けするかもしれません。

それでも、あえて「生音に迫る音」であると言い切ったのは、間違いなく、現代の精緻なスピーカーには無いものを NSスピーカーが持っているからであり、それが、生音に迫る音の源泉であるからなのです。
曰く、巨大なサイズ & 高能率。
巨大な NSスピーカーは、実に堂々と、浪々と鳴ってくれるのです。


反面、巨大なサイズのスピーカーということで「点音源の理想」から かけ離れているのではないかという反論も当然ありますよね。
でも良くしたもので、高域を受け持つツイーターはまさしく「点音源」なので、定位に悪影響をもたらすようなことはありません。また、巨大サイズのスピーカーの広い音面全体から発せられる音域は、さほど指向性に悪影響を与えない中低域が主成分と考えられる(さらに高域は音面のセンター付近に集中する)ため、懸念されるような悪影響を感じることは無いのです。

逆に、点音源の音面が球面なのに対し、面音源の音面は平面に近いため、音面の空間合成時のバランスも良く、耳に到達した時に自然な距離感を伴って聴こえるというメリットがあると考えられます。


とはいえ、NSスピーカーを、ただアンプに繋いだだけで生音に迫る音が出るというふうに短絡的に解釈されると誤解の元になるかもしれませんね。
実際、NSスピーカーの音を酷評するような方も中には居られるようです。まぁ、これについては、どのようなセッティングで、どんな耳で聴けばそのような評価になるのか私には想像も出来ませんが。
旧い構造のスピーカーに対する偏見をもたず、後面開放と言う構造を正しく理解したセッティング(壁掛けなんて論外ですよ)さえしていれば、少なくとも故障品でない限り、相応の音が出るという事は保証出来ます。

ただ、当方のシステムは独自セッティングの 15ch マルチアンプシステムであるということも加味して記事内容をご判断下さい。(独自セッティングマルチシステムについては、後日改めて紹介させて頂きます。→こちら
とはいえ、やはり40年前の NSスピーカーには、その大きさと独自構造、高能率スピーカーであるがゆえに、生音に迫りうる可能性が十分に秘められているという事を存分に確認することは出来るはずです。



***

年末に M氏を招くため、急支度で整えたシステムでしたが、その後 2ヶ月が経過し、ようやくセッティングにも十分満足できるアタリがつきました。改めて M氏をご招待し、アタリの付いた音を聴き直して頂くつもりです。
私的には、目指す音に到達出来た想いなので、ついにはオーディオの存在を忘れて、音楽に没頭できる環境が整いました。

日々、一流ミュージシャンが、NSスピーカー越しに 生演奏に来てくれる醍醐味。

NSスピーカーと対峙する時、「振動板の面積が大きくなるほど、また能率が高くなるほど自然な音色になる」は、摂理だと確信するのです。



追記:生音の定義について
その5 <生音場に迫るために>でも書きましたが、ここで言うところの生音とは、ステージ(ここではシンフォニーホール)の生音・臨場感を 客席最前列付近で聴く音と想定して書いています。(客席も場所によって相当音が変わりますので) また、生音とは、基本 アコースティック楽器の音を想定しています。
PAを通した音や、電気楽器の音を想定しては書いていませんので、念のため追記しました。
(Jazzボーカルなどは PA通しになりますが、オーディオで聴く場合は、ご都合主義で生声想定です(^^;)
PAライブの音を 生音と定義される方もおられますので、念のため。




→ 我流オーディオ独り言-5 <生音場に迫るために> アップしました。


→ 我流オーディオ独り言-1 <NSスピーカーのお話-1>
→ 我流オーディオ独り言-2 <NSスピーカーのお話-2>
→ 我流オーディオ独り言-3 <NSスピーカー三昧>

→ M氏の個人ブログはこちら




タグ:オーディオ

謹んで震災被害のお見舞いを申し上げます [日記/おしらせ]

この度の東北・関東大震災により被災された皆さまには、心よりお見舞いを申し上げます。
皆さまのご安全、ご健康と一日も早い復旧を心からお祈り申し上げます。

***

私も阪神大震災で被災した経験があり、当時のことを、まざまざと思い起こしておりました。
直下型だった阪神大震災は、雷に打たれたような直撃型の衝撃でしたが、
海洋型の今回の地震は、、、想像を絶する津波の脅威も加わり、あまりに広域な被害状況には、全く言葉を失ってしまいます.. 。

どうか、お一人でも多くの方がご無事でありますように。
どうか、希望の灯までを無くしてしまいませんように。
そう願うのみです


WTC_rainbow.jpg
希望の虹に託して。 大阪 南港から










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我流オーディオ独り言-5 <生音場に迫るために> [我流オーディオ独り言]

オーディオブームも今は昔。音楽を聴くスタイルも ずいぶん変わりましたね。
私とて、パソコン用の小さなスピーカーや、iPad を鳴らすことも多い今日この頃です。

でも、BGM としてではなく「音楽と対峙」したい時は、やはり、、、

YAMAHA NS-30 JA-6002
前回、15ch マルチシステムとお話ししたオーディオです。一見、旧い大型の 2ch ステレオセットですが....



我流オーディオ独り言 - その5 <生音場に迫るために>です。

生演奏とオーディオの音を比較した場合、一番大きな違いを感じるのは「音場のスケール感・距離感」だと思うのです。

私は、もう10年近く、月に平均一回は、シンフォニーホールにクラシックの生演奏を聴きに出かけています。
ここ5年ほど いつも確保している席は、コンサートマスター正面・最前列の席。(クラシック鑑賞はホールの中程が良いという定説もありますが、様々な場所と比較して、私はここが一番と決め込みました)

そこからの景色は、前方170度程の視野角一杯に弦楽器群が陣取り、奥行き10数メートル(もっと?)ある
ステージ後方には、木管群、金管群、打楽器群が陣取ります。
ある時は、ソリストが目の前で 息づかいまで聴かせてくれ、またある時は、フルオーケストラが音の塊を iMax シアターの巨大3D映像のようなスケールで炸裂させてくれます。

眼前で繰り広げられる こんな生音場のスケール感を、ほんの数m四方の部屋に閉じ込めた オーディオセットに求めるのも無謀な話ですが、相似形の音が CDソースに詰め込まれているとするならば(ホントに?)、最大限に引き出して再現させてみたいと考えるのも オーディオ好きにとっては自然な要求だと思うのです。

今回は、<生音場に迫るために>をテーマに、私が施している我流オーディオのセッティングをお披露目したいと思います。


***

例えば、2本のスピーカーから同じ音を出して正面で聴くと、音は2本のスピーカーの中央に定位します。ステレオでモノラルのソースを再生した場合がそうですね。

このとき、一方のスピーカーの結線を、プラスマイナス逆にするとどうなるでしょう。
中央に定位していた音は、スピーカーの周辺に分散し、どこで鳴っているか解りにくい音になります。
いわゆる逆相の音で、左右の音が空間合成される時に、中央付近ではプラスマイナスの波動が打ち消し合うために中央の定位は無くなります。勿論、完全に消えるわけではありませんし、逆に周辺部が強調されるため、分散した音に聴こえるわけです。

実は、2ch のステレオソースの中には、録音されている音そのものの中に逆相の成分が多分に含まれているため、普段ステレオを聴いていても上記と同じ現象を体験しています。意識して聴かずとも、ときどき左右のスピーカーよりもさらに外側から音が聞こえてきて びっくりする事がありますよね。それが、そうです。
逆相の成分がバランスよく記録されていれば、音場感はスピーカーの外側にまで豊かに広がって聴こえます。
...でも、スピーカーの遥か後方から聴こえてくるような奥行き感までは、なかなか再現できませんけれどもね。
その辺りがステレオ再生の限界なのでしょう。


CDなどの 2ch ソースを、奥行き感を持って再生することをウリにするものは 旧くからあります。
マトリックス 4ch に始まり、様々な仕様のサラウンドアンプや、5.1ch(DOLBY Pro Logic)がそれで、ソースの中に含まれている逆相成分を抽出・強調して それぞれのスピーカーに割り振り、擬似的な立体音場を作り出します。
それなりの効果はありますが、悲しいかな、ある程度その効果を強調しないことには、普通のステレオとの差が解りにくいからでしょうか、商業ベースでサラウンドを売り物にした製品は、概して効果を強調し過ぎている感は否めないと思います。これ見よがしのサラウンド効果(エコーなんかもたっぷり加わってたりして)は かえって耳障りであり、ピュアオーディオを志向するマニアの多くは、AVアンプなどは別物(キワモノ)として嫌う人が多いのも事実です。私も、敬遠していた口です。

さらに言えば、市販品のサラウンド音場の考え方は、DOLBY に代表されるように、映画(AVサウンド)ベースで、音に包まれる感覚を再現することに重点を置いているため、リアスピーカーが加わることで音の渦の中にいるような聴こえ方になりますよね。
でも、それは生演奏という観点で音楽を聴くには不自然な感覚で、音楽を聴く時の音場は、背面からの反射音よりも、前方ステージの奥行感や、ステージまでの距離感が感じられることのほうが重要だと思うのです。背面からの反射音は、多くの場合 無用なノイズとして聴こえてしまうほどですから。
映画の、平べったいスクリーンから出てくる音に、環境音などを加えてスクリーンの中に入り込んだような感覚を誘う 包み込み型のサラウンド音場の考え方は、ある意味 奥行き感のある音ですが、音楽を自然に再現するかと言えば、ちょっとキツイなと感じてしまうのです。


私が目指したいのは、まさに、自分がいつも確保しているシンフォニーホールの席で聴くステージのスケール感と各楽器までの距離感。
コンサートマスターまでの距離は、リスニングポジションからスピーカーまでの距離で良いのですが、圧倒的に違うのが、大きなステージ全体から感じるスケール感、奥行感です。
欲しいのは、自分の背面から聴こえる環境音ではなく、スピーカーの向こう側に広がる空間の音(音源自体の奥行き感)なのです。



さて、話を戻しましょう。前述の 2本のスピーカーは、試聴位置から等距離にあるスピーカーを想定して書いていましたが、では、スピーカーを前後にずらして(奥行きをつけて)鳴らした場合は、音はどのように聴こえると想像されますか?

メインとなるスピーカーを前にして、追加するスピーカーをその後ろで鳴らせば、少なくとも、前のスピーカーの音は後ろに引っ張られ、うまくすれば、正面のスピーカーよりも、更に奥の方から聴こえてくる奥行き感ある音場が得られるようになるのではないかという可能性も否定でき無くはないですよね。(そんな簡単に行くはずはないですが。)

スピーカーから出て来る音は、基本的に「そこから出ている」と耳が認識してしまうため、生ステージの奥の方から聴こえてくるようなリアルな奥行き感を期待することは、なかなか出来ません。ステレオの空間合成で左右方向への広がり感はかなり再現されても、音源であるスピーカーよりも、さらに奥の方から聴こえてくるような奥行き感に関しては、せいぜい逆相成分のいたずらで、何となく そのように感じられる程度にしか再現されないものです。
ならば、実際に、そのスピーカーよりも奥で鳴らすことで、物理的に奥行き感をつけてみようという試みです。


実際にはこんな感じ。 本来なら、出来るだけ 同一面に並べようとするんですけど。逆の発想ですね。
3D_SP_Lyout2.jpg
3D_SP_Lyout3.jpg
柱の後ろのトールボーイスピーカーも そうです。 1mほど後ろで鳴らしています。しかも、ガラス面に向けて。



余っているスピーカーとアンプが複数あったため、好奇心も手伝って、そのようなことばかり試していた時期がありました。
同位相で効果が得られなければ逆位相にしてみたり、角度をつけたり、壁に反射させたり、ディレイを掛けたりと。不自然な弊害が出ようものなら、何度でも修正を加えながら色々試してみたものです。


....ここで、一つ主張しておきたいことがあります。
上記のようなセッティングをすることは、あまりにもオーディオの常識からかけ離れていると言われてしまうかもしれませんね。確かに、CDに刻まれた音楽信号を忠実に再生するという観点からは、必要の無いこと、やってはならないとされること をしているととられても仕方ありませんから。

しかし、いわゆる無響室で、CDに記録された波形を計測するために音を鳴らすのではありません。
逆に、音楽を聴くのにふさわしい環境を得るためには、適度な反射や、反響、更には、相応なスケール感や距離感を伴った聴こえ方のするようにセッティングしていく必要性のほうが、はるかに重要であると 私は考えるのです。

なぜなら、例えば、もし、シンフォニーフォールを借り切って、そこに自前のオーディオを持っていき、ステージで伸び伸びと鳴らして客席で試聴することが出来るならば、それだけで生演奏に迫る音が得られる可能性が高くなります。
でも、数m四方の小さな部屋では、たとえオーディオ機器が全く同じ音を出していても、演奏会場で聴くような音には聴こえなくて普通だからです。同じ音が出ていても、音の聴こえ方は、環境に大きく左右されるのです。
金を賭けたオーディオならば、どこで聴いてもいい音がする、、、 なんてことは ありえない訳です。

スピーカーから音が発せられてからが勝負。

メーカーが、いくら良い製品を作ってくれていても、スピーカーから出た後の音の聴こえ方までは保証してはくれません。スピーカーから出た後の音は、生かすも殺すもユーザー次第というわけです。
欲っする音を得るために、欲っするように聴こえる環境へとセッティングしていくことを、ユーザーは任されているのです。
上記セッティングは、そのようなことをユーザー本位に押し進めたいが為の試みの一つ とご理解頂ければ幸いです。


***


そして、試行錯誤の末、徐々に効果あるセッティングが見えてきました。

ディメンションコントローラとデジタルプロセッサを組み合わせ、ディレイを調整しながらテストしていたところ、音場感が増し、ぐっと存在感のある音に聴こえるようになってきたのです。(本当は、もっと具体的な表現で書きたいところなのですが、誤解を生むことも懸念されるため、このような表現にとどめます。興味ある方はご自分で試してみてください。)
DOLBY Pro Logic やサラウンドアンプなどでも、位相を操作し、ディレイを掛けますが、それは メインとなる信号そのものに対してですから少し違いますね。
こちらの手法は、メインで鳴っているスピーカーの音はそのままにしておき、後ろに追加した別のスピーカーから出る音に対して位相を変えたりディレイを掛け、空間でメインの音と合成させて音場に奥行き感を作るという考え方な訳です。

「音場感が増す」は、ディメンションコントローラによる逆位相効果やディレイによる僅かな音の遅延効果で、メインスピーカーの後ろ側に距離感(奥行き感・広がり感)を感じることが出来るようになり、
「存在感のある音」は、サブスピーカーとの音のコントラストで音が際立つことに加え、前後からの音の空間合成で音圧が増幅されることなどによるのではないかと考えています。

「メインとするスピーカーの音に、音場感を与え、より存在感ある音にするために、ディレイを掛けたサブスピーカーをメインスピーカーの後ろで鳴らす。」
ちょっと、邪道めいた手法と感じる方もおられるかもしれませんが、その効果には、驚くほどのものがありました。サブスピーカーは、別のアンプで駆動しているわけですから、コントロールも自在ですし、OFF にしての聴き比べも、いつでも出来るわけです。効果のほどは歴然です。

加えて、角度をつけたり、壁に反射させたり、アンプ側で色々コントロールしたりと、サブスピーカーのセッティング幅は無限に可能で、私が求めるところの 音場感、存在感のある音の再現には、これらのセッティングが一つの鍵になると確信したのでした。


メインスピーカーに音場感がつくということは、全体的に ステージサイズが大きくなることを意味します。
その中で、センターのソリストやボーカリストをより際立たせるためには、センタースピーカーを加えることが非常に有効であると言うこともハッキリしてきました。

DOLBY Pro Logic などでは、センター定位のボーカルなどは、チャンネルセパレーションを確保するために左右のメインスピーカーから信号を差し引き、センタースピーカーだけで鳴らすように割り振りされています。(ですから、モノラルソースは、センターチャンネルでしか鳴りません)
しかし、当方のシステムでは、あえて、左右のメインスピーカーからは同相成分を差し引かず、3ch 分の空間合成で、センター定位するようなセッティングとしています。(なので、モノラルソースでも 3chが鳴ります)

DOLBY の考え方からすると、セパレーションが悪くなり、折角の Pro Logic が台無しと揶揄されそうですが、適切なディレイを掛けて空間合成をすれば、センター定位のボーカルの前後位置などもコントロール出来るようになり、より一層 存在感のある音とすることが可能となるため、試行錯誤の結果このようなセッティングとしました。(ちなみに、ディレイを掛けると音が変化するのではないかと思われる方がいるかもしれませんが、デジタルディレイで時間軸を遅延させるだけの場合は、メモリに一時的に蓄えるだけなので音質に影響はありません。また、聴感上、遅延が解るほどの大きなディレイは掛けません。僅かな距離感を生む程度のディレイです。)

また、左右のメインスピーカーから同相成分を差し引くと、音楽信号としてのパンチ力もそがれてしまいますし、私の耳にはステレオ本来の音像もおかしくなってしまうようにも聴こえます。
ので、2ch のステレオ信号はそのままに、センターチャンネルを追加するのが良いと結論付けました。
センターチャンネルは DOLBY Pro Logic の仕様を使いました。モノラルの信号成分だけを残し、左右チャンネルの音を綺麗に消し去る技術は優れたものですね。国産のサラウンド仕様では実現出来ていない技術だと解りました。

かくして、私がとったセッティングでは、センタースピーカーの時間軸を中心にして、メインスピーカーにも僅かなディレイを、さらにサブスピーカーに僅かなディレイを、、、という具合に、15chあるスピーカーを ディレイで連鎖的に繋いでいくというような構成としたのです。
複数のサラウンドアンプ、デジタルプロセッサ、ディメンションコントローラなどを組み合わせました。


こんな具合です、、、
センター 1ch(DOLBY Pro Logic のセンターチャンネルのみ使用)
ベースとなる 2ch(ステレオ L、R センターに対して 1.3ms遅延)
サブ2ch(ステレオ L、R  センターに対して 20ms遅延)
・YAMAHA シネマDSP デコードによるサブ2ch(センターに対して23ms遅延)
・YAMAHA シネマDSP デコードによるフロントエフェクト2ch(サブ2chの後ろ外側で30ms遅延)
・YAMAHA シネマDSP デコードによるリアエフェクト2ch(前方左右外側で30ms遅延)
・DOLBY Pro Logic によるリア2ch(背面:円筒スピーカー:上向き)
・マトリックスリア2ch(背面:後ろ向きスピーカー)
という、合計15chのマルチシステムとなりました。

背面スピーカーの4本以外は、全て、ステージのスケール感を確保するためにセッティングしています。 背面の4本が無くても、ステージのスケール感は得られる設定です。
(それぞれ、独立したサラウンドプロセッサを使用しており機器別に固有の遅延も考えられるため、遅延時間は目安とお考え下さい。耳をたよりに調整した結果です。)



これらセッティングが奏効し、ついには「行きつけのシンフォニーホールに迫る音場感の再現に成功した」と言ったら、信じて頂けるでしょうか?。(^^;)

数m四方のオーディオルームの前方、スピーカーの背後に、部屋よりも大きなステージが出現するのです。

私的には、最近シンフォニーホールに出向くたびに、自宅で聴くオーディオの音と、なんら変わらない、、、という感想を持つに至っております。(^^)

NS_STEREO_3.jpg
リスニングポジションから広角撮影。ソリストやコンサートマスターは眼前に。ステージの左右と奥行きは
パノラマの出窓より 更に外側・奥にまで大きく広がって聴こえる音場感を再現します。



ピュアオーディオを目指すマニアの方には、全く目指しているところが違うと一蹴されるかもしれませんが、独自の手法でチャレンジしているものと、温かくお見守り下さいね。(^^) 結果オーライです!


加えて もう一言
もともと、2chソースは、録音の現場でのマルチチャンネル(3D空間の音源に対して複数マイクで録音された)ソースがミックスダウンされたもので、奥行き情報がスポイルされている訳ですから、逆位相成分などを上手く抽出しなおし、実際に奥行きをつけてレイアウトされた複数のスピーカーで3D空間に再現するという手法は、邪道っぽくは見えますが案外的を得ている部分もあるのではないか、、、などと考えるに至っております。皆様はどのようにお考えになられるでしょうか?


***


もともと このようなセッティングを考えるきっかけを作ったのも、今まで紹介してきた NSスピーカーが奏でる音にハマっていたからです。
NS-30 のウーファーは、後ろ向きに取付けられた逆相ウーファーで、その音には不思議な奥行感があるのです。
そこに在るスピーカーが音を出しているのではなく、奥行きある空間自体が鳴っているかのような感覚。

リヤのスピーカーをサラウンド用として使うのではなく、フロントのメインスピーカー周りの音に対して、位相や時間軸をコントロールした音をうまく空間合成できれば、DOLBY サラウンドなどよりも、ずっと自然な奥行き感を得られる可能性があるのではないかという期待感がありました。(実際、当15chシステムで言えば、背面の4ch分がなくても十分な音場感が得られます。)

主に聴くのは CD のため 2ch ソースですが、勿論 現システムでも AAC、AC3には対応させており、15ch を総動員した ディスクリート 5.1ch の再生も可能です。
確かに元ソースの情報量に違いはありますが、ステージの奥行き感などは、2ch とディスクリート5.1chソースを聴き比べても、全く情報量に不足感はありません。逆に、2ch ソースの方が、より自然な奥行き感を伴って聴こえるし、50年代、60年代の旧いソースの情報量の豊かさ、録音の良さには、驚きを感じてしまうほどです。

***


実は、年初に、当システムを HDMI などの新しい規格に対応させていくために、前段のプリ部分と主要チャンネルのメインアンプ部分を最新の AVアンプに入れ替えるつもりで、中級機では人気 No.1と言われる AVアンプを購入していたことがあったのですが、パラメータなどのセッティング自由度が低く、想定しているような使い方が出来ませんでした。
最近のAVアンプは、様々なフォーマット(THXや、DTSなど)にプリセット対応している反面、ユーザー設定の範囲が狭くなっているんでしょうね。お仕着せのプリセットしか用意されていないのであれば、上記のような独自設定には全く対応出来ないということになってしまいます。
結局、購入して1週間もしないうちに、新品同様品としてオークションに出品し、手放す羽目になってしまいました。

CD など、2chソースを中心に聴くのであれば、20年ほど前のサラウンドアンプで十分楽しめますし、逆に、色々やってみたい向きには、最新のAVアンプは、かえって使えないことが多いようです。
(あまり大きな声で言えませんが、購入した最新のデジタルアンプ(定価 10万円弱の中級機)より、20年ほど前のアナログアンプの上級機の方が 音も良いと感じました。あくまで私感ですが..。ちなみに、旧いアンプは YAMAHA AVX-2200DSP や、SONY の ESPRIT シリーズです。)
余っている旧い AVアンプやサラウンドプロセッサ、スピーカーなどがある方は、処分する前に色々試してみてはいかがでしょうか。追加機材が必要になれば、オークションで お安く手に入れることも出来ますし。

音場の再生などで、独自設定にチャレンジされている方の ご参考にでもなれば幸いです。



→ 我流オーディオ独り言-6 <iPad のスペアナで 巨大NSスピーカーを測定してみました。> アップしました。

→ 我流オーディオ独り言-1 <NSスピーカーのお話-1>
→ 我流オーディオ独り言-2 <NSスピーカーのお話-2>
→ 我流オーディオ独り言-3 <NSスピーカー三昧>
→ 我流オーディオ独り言-4 <生音に迫る音>



おしらせ:
ASPECT DESIGN では、デザイン開発業務の一環として、従来から マルチメディアコンテンツ・映像制作などを行っておりますが、AVつながりということもあり、新たに オーディオノウハウの提供、ハードウエアセッティング、PA、生録音(マルチトラックレコーディング)なども業務内容に加えることになりました。
なんなりとご相談頂けましたら幸いです。


時節柄、趣味に特化したような記事を出すことには躊躇もあったのですが、弊社業務拡大のお知らせということもあり、掲載致しました。(記事作成時期は、ちょうど震災の前後でした。少しの間、寝かせておりました。)
宜しくご了承のほどお願い申し上げます。



追記:生音の定義について
ここで言うところの生音とは、ステージで演奏されるアコースティック楽器を客席側で聴いた場合の、自然な臨場感ある音を想定して書いています。
PAを通した音や、電気楽器の音を想定しては書いていませんので、念のため追記しました。
(Jazzボーカルなどは PA通しになりますが、オーディオで聴く場合は、ご都合主義で生声想定です(^^;)
PAライブの音を 生音と定義される方もおられますので、念のため。


追記:
先般、オーディオを聴きにこられた方が、素敵なブログをアップしてくださいました。ありがとうございます。










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